<image src=http://kamuinotami.works/creators/img/ovo/idol.png width="95%" height="95%">
[[prologue]] クマコウゲンでは今年も収穫の時期となった。今夜は稲刈りの無事を祈る穂掛け祭りだ。
穂掛け祭りでは神に収穫の無事を祈るため選ばれし者が歌を奉納する。
日が暮れ、人々が会場に集う。
会場の中心には大きな焚火と祭壇。
「そろそろ出番だよ!いぶき!」
歌うのはワコクの誇る歌姫、いぶきだ。
名を呼ばれ、祭壇の前に立つ。
歌姫の登場で静寂に包まれる会場、いぶきはゆっくりと目を閉じて集中する。
鼓や笛の音が鳴り始めた。人々が肩を揺らし始め、リズムを取る。
満点の星空、幻想的な演奏、リズムに合わせ踊りながら人々のボルテージが上がっていく。
目をゆっくりと開け、歌い出すいぶき。
圧倒的な歌唱力で一気に場の空気を掴む。
歌い出しから徐々に盛り上がりを見せ、歌が佳境に入ろうとしたその時、歌に呼応するように星々の光が増す。
突然、周囲が光に包まれる。
人々は眩しさから一瞬目を閉じる。
演奏が急に止み、周囲が静寂に包まれた。
「・・・・・いぶき?」
人々が目を開けると祭壇にいたはずのいぶきの姿が無い。
光と共に姿を消した歌姫。取り残された人々は呆然として空を見上げる。
------------------------------------------------------------------------------------------
「・・・・・ここは?」
目を開けたいぶきの眼前には見慣れない山岳地帯が広がっていた。
[[次へ]]FUJIWARAKAMUIVERSE × Project B-idol Collaboration Project
ツナグヒカリ
<image src=https://kamuinotami.works/creators/img/img/001.png width="70%" height="70%">
[[kamuiverse side episode1]]<出会いの数日前>
いぶきは気付くと見たこともない山岳地帯にいた。
祭りで歌っている時、目の前が突然光に包まれた記憶だけが残る。
「・・・ここは・・・一体私はどこに・・・?」
いぶきは見知らぬ土地で途方に暮れた。
豊かな自然に囲まれたワコクの風景とは異なり、荒涼とした岩に囲まれた山地。
ブルンっという馬の鼻息のような音がして振り返る。
一人の少年が立っていた。白い毛に包まれた、首の長い動物を引いている。
「あなたは・・・」
「チチカカ・・・」
少年が言葉を発した。
「チチ・・・カ・・カ?あなた・・・チチカカって言うの?」
少年を指差しいぶきは「チチカカ」と言うと少年は首を横に振り、手を広げ「チチカカ」とまた言葉を発する。
「あ、わかった。チチカカっていう場所なのね。貴方は・・・?私は『いぶき』、い・ぶ・き」
いぶきは自分を指差しながら言う。
「エ・・・コ」
少年はいぶきが名前を言っているとわかったのか同じように自分を指差して言う。
賢い子だ、名前は『エコ』と言うらしい。
エコは指を差しながらいぶきに手を差し伸べる。
「wasi・・・エコ・・・」
「ワシ・・・?エコの・・・なんだろう・・・」
いぶきはエコの話す言葉はわからない。エコはどこかを指差している。
エコはいぶきをどこかに案内しようとしているようだ。
導かれるままいぶきは歩き出す。しばらく行くと葦で出来た建物に着いた。
どうやらエコの家に連れてきてくれたらしい。
[[エコの家へ]]あれ、私どうしたんだろう…?
ソフィアが目を開けると、そこには見渡す限りの山岳地帯が広がっていた。
今日は特別な日なので早めに学院に行って… それで… 私、どうしたんだっけ?
ゆっくりと立ち上がるソフィア。
空気も自然も、何もかもが違う。ソフィアは反射的にそう感じた。
リン… アメリア… どこ?
混乱するソフィアに、不思議な服装をした女性が声をかけてきた。
「あの… 大丈夫ですか?」
「ここは… どこ?」
「えっと… ここはチチカカです。あの、あなたはどちらからいらしたのですか?あまりお見かけしない顔ですが」
[[kamuiverse side prologue]]
湖畔のほとりにポツンと建つ家。この辺りに群生する葦で作られている。
火を起こして蝋燭に火を灯すエコ。蝋燭の火で照らされた家の中には誰もいない。
「エコさん・・・一人で住んでいるの?」
いぶきが問いかけるとエコは笑顔で答える。頷きも首を横に振るでもなく。
エコはいぶきに椅子に座るように促した後、奥の部屋に入っていった。
しばらくすると温かいスープを持ってきてくれた。
いつから食べ物を食べてないのかはわからないが、匂いをかいだだけで腹の虫が鳴いた。
一口食べると優しい味のスープが染み込む。エコは笑顔で佇んでいた。
行くあてのないいぶきはしばらくの間エコの家に世話になることとなった。
滞在してから数日、誰も訪れることは無かった。
言葉はわからないがエコはいぶきの意図することを察して世話をしてくれた。
「いぶき!」
穏やかな数日が経過した時、外で何か作業していたエコがいぶきを呼びに来た。
呼ばれて外に出たいぶきはエコが示す方を見る。
数日前自分がいた場所に光の柱が立っている。
いぶきとエコは急いでそこに駆けた。
そこには見たことのない服装の女性がいた。
[[ソフィアとの出会い]] その女性は数日前の自分と同じように困惑したように周りを見渡していた。
「あの… 大丈夫ですか?」
いぶきは恐る恐る声を掛ける。
「ここは… どこ?」
女性は今にも泣きそうな顔をしている。
「えっと… ここはチチカカです。あの、あなたはどちらからいらしたのですか?あまりお見かけしない顔ですが」
「チチ・・・カ・・カ?」
女性は初めて聞く地名に困惑しているようだ。
「実は・・・私もまだここに来て間も無いんです・・・」
いぶきが続ける。
「私はワコクという所に住んでいた『いぶき』と言います。祭りで歌っていたら突然目の前が明るくなって・・・気付いたらこのチチカカに・・・」
「いぶきさん・・・。私は『ソフィア』。私も・・・皆と歌を歌っていたら目の前が光って・・・」
「ソフィアさんも・・・大変だったんですね・・・。私がチチカカに来た時に助けてくれたのがこの子なんです」
いぶきの後ろから一人の少年がひょこっと顔を出し、ソフィアに向けて笑顔を見せる。
[[3人でエコの家に]]「言葉がわからないから・・・あまり詳しい理由はわからないけど、ここで一人で暮らしているみたい」
いぶきはソフィアが聞きたいことを察し、代わりに答える。
自分の時と同じようにエコはソフィアに温かいスープを振舞った。
ソフィアもまた、エコのスープに体を温められ少し緊張がほぐれたようだった。
「ソフィアさん、ちょっと外に出てみませんか?」
いぶきがソフィアを外に誘う。
「!・・・綺麗!」
ソフィアが思わず声を上げる。
そこには見たこともない満天の星空が広がっていた。
標高が高く周りに光も無いせいか、まるで宇宙にいるかのような星空である。
焚火を囲み3人で座る。
「すごいですよね。私も初めてこの地に来た夜にエコが外に誘ってくれたんです。知らない土地でどうしよう、このまま帰れないのかしら。なんて考えて不安な顔をしてたからかな。ソフィアさんも食事の時とても表情が暗かった。私もそうだったからわかるの」
いぶきは星空を見上げながら言う。
「いぶきさんも・・・。そうですよね。確かに私も不安で押しつぶされそうでした。そんなに暗い顔してたかな・・・」
ソフィアは寂しそうにはにかんだ。
「私、この星空を見ると、不思議と心が落ち着くんです。多分すごく遠い所に来たんだろうけど、ワコク・・・あ、私がいた国の名前です。ワコクとはこの星空でつながっているんだろうな、そう思えて。ソフィアさんはどこから来たんですか?」
「私は国際芸術芸能学院って所から・・・」
「コクサイ・・・ゲイジュ・・・」
いぶきは聞きなれない単語に首を傾げた。
「いや・・・あ、私は日本という国から。ワコクとかチチカカとか・・・私はどこに来てしまったんだろう?」
ソフィアは考えを巡らす。
「日本・・・、聞いたことないな・・・」
かみ合わない会話に二人は混乱した。
その時、エコがそんな二人にカップを差しだしてきた。
「カファ・・・Ukyana」
エコが笑顔で飲むしぐさをしながら言う。
「この香り・・・コーヒーだ」
ソフィアは差し出されたカップの中身を見て言った。
『カファ』とエコが言った液体はソフィアの世界で言うところのコーヒーという飲み物のようだ。
「カファ・・・コーヒー・・・?」
いぶきは見たことが無い黒い液体をまじまじと見る。
黒い液体の上にミルクの白い渦がゆっくりと回り、それが混ざり徐々に茶色に変わっていく。
カップからは湯気が立ち、ほろ苦くも芳醇な香りが鼻をくすぐる。
二人は香りに誘われコーヒーを口にする。
深みのある苦さの後に甘みとほのかな酸味が混じる。それを飲み込むと後から芳醇でフルーティーな香りが鼻の奥から抜けた。
「おいしい・・・」
いぶきとソフィアの声が重なり、2人は顔を見合わせて笑う。
「とにかく、私もソフィアさんも知らない所に来てしまって困ってるってことですよね!」
「確かに・・・これ以上はお互い混乱しそうだ。時間をかけて頭を整理しよう」
2人がカップの中身を飲み干す頃にはすっかりリラックスし、さきほどまでぐるぐると考えが回っていた頭の中がすっきりとクリアになった。
違う世界の二人が見知らぬ土地で話をするのだ、知らない事ばかりで話はかみ合わないだろう。
エコの入れてくれた[[コーヒー]]はそんな二人の心を滑らかにつないでくれた。
[[翌朝]] 風でカーテンが舞い、隙間から光がすり抜ける。
揺らめく朝日がソフィアの顔を照らした。
「ん・・・、もう朝か・・・」
ソフィアは体を起こし軽く伸びをする。
「ソフィアさん、おはようございます。よく眠れましたか?」
寝室から出て来たソフィアにいぶきが声をかける。
「おはよう、いぶきさん」
昨夜、床についた後もしばらく寝付けず眠い目を擦るソフィアに、いぶきは爽やかな笑顔を向ける。
「ちょうど今、朝食ができたので起こしに行こうと思っていた所です」
両手に持った皿をテーブルに並べるいぶき。キッチンからパンの入った籠を持ったエコが出て来る。
「おいしそう・・・」
皿にはスクランブルエッグとカリカリに焼いたベーコン。
入れたてのコーヒーの香りが鼻をくすぐる。
「さあ、食べましょうか」
三人はテーブルを囲み座る。
「ところで、これからどうしよう・・・」
ソフィアは温かいパンをちぎり、口に運びながら言う。
「そうですね・・・エコは買い出しに市場に行く予定だったみたいです」
「市場があるんだ」
「ええ、この家から少し歩いたところに大きな湖があって、そこで獲れた魚や雑貨とかが売られている市場があるそうです。情報収集も兼ねて行ってみようかと」
いぶきはチチカカに迷い込んでからの数日、エコと周囲を回っていた。言葉は通じないが、一緒にいるうちに少しずつコミュニケーションができるようになってきたようである。
「そうなんだ!行ってみよう。ていうかさ、いぶきと私ってそんなに年変わらないよね?辞めない?敬語。呼び方も『ソフィア』でいいよ!」
「そうで・・・そうだね。そうしよう。じゃあ、ご飯食べたら準備しようか」
二人のやりとりを見てニコニコと笑みを浮かべるエコ。
「いぶき、ソフィア・・・khunpa(クンパ)」
「クン・・パ・・・?」
エコが聞きなれない単語に首を傾げる二人の手を取り、握手を促す。
「クンパ・・・仲間?友達・・・かな」
ソフィアが握手をさせられていると感じ推測する。
「khunpa!トモダチ!」
エコは二人の手を取り笑う。
「そうね。私たち、もう友達だよね!」
「エコもね!」
三人は握手をしながら笑った。
[[市場へ]] 支度を済ませた三人は湖のほとりの市場に向かう。
背に荷物を載せたアルパカ(だと思う)を引くエコの後ろから、いぶきとソフィアは並んで歩いた。
エコは数匹の山羊や鶏を飼い、卵やミルク、葦で編む籠や壺を市場で売って生計を立てているようだった。
家は一人で住むには大きく、家族はどうしたのか、いままでどうやって育ったのか、言葉が流暢に話せない二人には知る由もなかった。
「うわ~けっこう賑わってるね!」
「いろんな恰好の人たちがいるのね、ワコクと違って色鮮やか!」
エコの住む家から歩いて数十分の所にある湖のほとりの市場は人で賑わっていた。
人々が身に纏う、原色の赤や緑の糸を使った複雑な模様に編まれた衣服は色彩豊かだ。
湖には島が点在し、その島には建物が建っている。
「いぶき!あの島動いてない?!」
「本当だ!島が動いている!」
ソフィアが指差す島が湖面の揺れに合わせて小さく上下している。
「あの島の地面は葦で編まれていて浮いている浮島なんだよ」
二人の後ろから男が話しかけて来た。
「え?日本語(ワコク語)!?」
振り向きながらソフィアといぶきの声が重なる。
振り向くとハットを被った無精髭がうっすら生えた長髪の男が立っていた。
「よお!エコ!どうした、こんな美女二人を連れて!」
「[[セカ!]]」
エコが男に笑顔を向ける。二人は知り合いのようだ。
「ソフィア、いぶき。セカ!トモダチ!」
エコは男を指差しながら言う。
「ソフィアちゃんといぶきちゃんって言うのかい?俺はセカだ、よろしくな!」
男はハットを脱ぎ紳士風にお辞儀をする。
「セカ・・・さん。初めまして、いぶきです」
「・・・ソフィアです。初めまして」
二人は戸惑いつつもエコの友達と言う陽気な中年に向けて頭を下げる。
「この街はプーノって言うんだ。あの湖は[[トプラ湖]]って呼ばれてる。このチチカカの中心に位置する湖さ。世界中の旅人はこのプーノに集う。お嬢ちゃんたちの言葉はワコク語だろ?ワコク人も来た事があるぞ」
セカはワコク語が堪能だ。
「トプラ湖には葦を編んだ浮島がいくつもある。昔戦争で敵から逃れるために湖に浮島を浮かべて生活しだしたのが始まりのようだ。今では旅人の宿に使われてるけどな」
「そうなんですね。島が浮いてるなんて初めて見ました。ワコクには無い風景。っていうか、やっぱりチチカカとワコクは繋がってるんですね」
いぶきはチチカカとワコクが繋がっている事、ワコク人がこの地に訪たことがあることを知り少し安堵した。繋がっているのであれば、帰ることはできる。
「ああ、滅茶苦茶遠いけどな。世界の端と端だ。ワコク人が来たのは・・・何年ぶりかな。最後に来たのはなんて言ったっけな・・・「ヤマト」とか言うえらく方向音痴の男だったな。なんとか温泉に行きたいって言ってた気が・・・。そいつが数か月滞在した時に俺はワコク語を習ったんだ。お嬢ちゃんたちがワコク語を話してるのを耳にしてつい話しかけちまったって訳。」
過去に来たワコク人の話はまた別のお話。
「ソフィア・・・どうかした?」
「え?・・・あ、ああ、やっぱり私は違う世界に来ちゃったんだなって思って・・・」
ワコクとつながりが見えて希望を見出したいぶきとは対照的に、ソフィアは自分のいた世界とは違う世界に来たことを実感し暗い気持ちになっていた。
「なんだ、ソフィアちゃんはもっと遠くから来たのか?」
「ええ、地球って星から・・・」
「地球・・・聞いたことないな」
「ふむ、我々がいる世界とは違う所から来たのか。ならもしかしたら俺も少しは役に立てるかもしれな・・・」
セカが何かを取り出そうとしたその時、背後から大きな歓声が上がった。
「Quankuna!tusuy~!takly~!」
チチカカの言葉なのだろうか、叫び声と共に歓声が上がり、手拍子が聞こえて来た。
「なんだろう・・・。音楽?」
人だかりの方からはアップテンポな弦楽器の演奏が聞こえて来た。
「ソフィア、エコ、行ってみよう!」
心の高ぶりを覚えたいぶきはソフィアの手を取り、人だかりの方に向かう。
「ストリートライブ?」
三人が行くと広場に人が集まり、輪の中心には弦楽器のような物をかき鳴らしながら歌う男がいた。
「何あの人!凄い恰好・・・!」
歌ってるのは、上半身裸で緑色ベースに複雑な模様のタトゥー、顔に骸骨のような化粧、サラサラの長髪を揺らしながら陽気な音楽を奏でている怪しい身なりの男だ。
そんな怪しい男が奏でる音楽は歌詞の意味は分からないが、聞いていると心に響くような高揚感を覚える。
ソフィアもいぶきも自然と肩でリズムを取る。
顔を見合わせ、手を叩き、ステップを踏む。
二人は自然とメロディに合わせ、スキャットで即興的に歌いだした。
初めてとは思えないくらい息が合っている。
ソフィアといぶきの声は広場に広がり人々は振り向き、音楽を奏でる男の元まで自然と道が出来た。
男は目を見開き、手招きをする。
二人は手を取り、輪の中心に歩む。
予期せぬセッションで輪を作る人々は更に歓声を上げた。
「おいおい、エコ。なんだあの二人は。すげぇじゃねえか。」
セカは横でニコニコ笑うエコに問う。
輪は更にボルテージを上げる。
互いに言葉は通じないが、音楽は世界共通だ。
怪しい男がかき鳴らす弦楽器の音楽に合わせ、ソフィアといぶきが即興で歌う。
聴衆は笑顔になり、熱狂する。
曲が佳境に入ったその時、晴れた空に向かって一瞬閃光が走る。
眩しさで目がくらんだが怪しい男は楽器を鳴らし続け、曲を演奏しきった。
音楽が止み、瞬間的に静寂が訪れた後、盛大な拍手と口笛、歓声がしばらく止まなかった。
ソフィアといぶきは我に返り、顔を赤くした。
「creaty・・・」
喝采を浴びる二人を見ながら怪しい男は呟いた。
ちょうど同じ頃、遠くから空に走る閃光を見つめる影が空に浮かぶ。
「なんだか楽しそうな気配がするのぅ」
刹那、晴天に稲光が走る。
<image src=https://kamuinotami.works/creators/img/img/003.png width="75%" height="75%"><image src=https://kamuinotami.works/creators/img/img/006.png width="70%" height="70%"><image src=https://kamuinotami.works/creators/img/img/004.png width="70%" height="70%">
illustrationby @sachi669